大判例

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大分地方裁判所 昭和27年(カ)1号 判決

再審原告 秦新

再審被告 脇屋稲雄

一、主  文

大分地方裁判所が同裁判所昭和二十四年(ワ)第一五四号不動産所有権移転登記手続請求事件について昭和二十五年六月三十日言渡した判決を取消す。

再審被告の請求を棄却する。

本訴及び再審訴訟費用は再審被告の負担とする。

二、事  実

再審原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その再審の事由として、再審被告は昭和二十四年八月八日再審原告を相手方として大分地方裁判所に不動産所有権移転登記手続請求の訴を提起し同裁判所は昭和二十四年(ワ)第一五四号事件として審理の結果昭和二十五年六月三十日再審被告勝訴判決の言渡しがあつて同判決はこれに対する控訴の提起なくして同年七月二十四日確定した。然るところ右訴訟においては頭初再審原告本人名義をもつて訴状の送達の受領及び答弁書作成等の訴訟行為がなされたが昭和二十四年九月十三日弁護士角本佐一を訴訟代理人に選任し同弁護士を訴訟代理人として訴訟を遂行し昭和二十五年二月四日同弁護士は一旦訴訟代理人を辞任したが同年同月十六日再度訴訟代理人に選任され再審原告は引続き同弁護士を訴訟代理人として訴訟の遂行を計つたところ昭和二十五年四月十二日同弁護士が訴訟代理人を再び辞任した後は再審原告自からが訴訟行為を行つてこれを遂行し判決の言渡を受けたことになつているけれども、再審原告は右訴訟において弁護士角本佐一を訴訟代理人として選任した事実もまた自から訴訟行為を行つた事実も全くないのであつて、これは何人かが再審原告の不知の間に或は再審原告の名義を冒用して訴訟代理人選任の委任状を作成行使しまたは原告名義で訴訟行為を遂行したものであつて民事訴訟法第四百二十条第一項第三号の再審事由に該当する場合であるから再審の申立に及ぶと陳述し、本案について答弁として再審被告が本案について主張する事実は全部否認すると答えた。<立証省略>

再審被告代理人は「再審原告の訴を却下する。再審原告は再審被告に対し別紙目録<省略>記載の不動産につき、昭和二十四年三月七日の売買による所有権移転登記手続をすること。本訴及び再審訴訟費用は再審原告の負担とする。」との判決を求め、再審の事由に対する答弁として昭和二十四年八月八日再審被告は再審原告を相手方として大分地方裁判所に不動産所有権移転登記手続請求事件を提起し、同裁判所は昭和二十四年(ワ)第一五四号事件として審理の結果昭和二十五年六月三十日再審被告勝訴判決の言渡しがあり同判決が確定したこと及び右訴訟が再審原告主張のように再審原告本人名義またはその訴訟代理人弁護士角本佐一によつて遂行された事実は認めるがその余の事実は否認すると答え、本案の請求原因として、再審被告は再審原告から昭和二十四年三月七日別紙目録記載の不動産を代金は六万円昭和二十四年四月末日までに買戻をなし得る特約つきで買受け即日右代金を支払つて右不動産の所有権を取得した、かりに再審被告及び同原告間で右のような買戻約款付の不動産売買契約が締結された事実がなかつたとしても再審被告は昭和二十四年三月七日金六万円を弁済期同年四月末日の約定で貸与しその弁済を担保する目的で再審原告から右不動産の所有権の譲渡を受けたものであつて、右いづれの理由によつても再審被告は再審原告に対し右不動産について所有権移転登記手続の請求をなし得るものであるから再審原告に対しその登記手続をなすべきことを請求すると陳述した。<立証省略>

三、理  由

再審被告は昭和二十四年八月八日再審原告を相手方として、大分地方裁判所に不動産所有権移転登記手続請求の訴を提起し、同裁判所は昭和二十四年(ワ)第一五四号事件として審理の結果昭和二十五年六月三十日再審被告勝訴判決の言渡をなし同判決に対してはこれに対する控訴の提起なくして同年七月二十四日確定した事実及び右訴訟においては頭初再審原告本人名義をもつて訴状の送達、答弁書の作成等の訴訟行為がなされたが昭和二十四年九月十三日弁護士角本佐一を選任して同弁護士を訴訟代理人として訴訟を遂行し昭和二十五年二月四日同弁護士は一旦訴訟代理人を辞任したが同年同月十六日再度訴訟代理人に選任され再審原告は引続き同弁護士を訴訟代理人として訴訟の遂行を計つたところ昭和二十五年四月十二日同弁護士が訴訟代理人を再び辞任した後は再審原告自から訴訟行為を行つて訴訟を遂行し判決の言渡しを受けたことになつていることについては当事者間に争のないところである。よつて再審原告が右訴訟において弁護士角本佐一を訴訟代理人に選任した事実または再審原告自からが訴訟行為を行つた事実がなかつたかどうかについて判断すると成立に争のない甲第一号証の二中大分地方裁判所昭和二十四年(ワ)第一五四号事件添附の答弁書昭和二十四年九月十三日附並に昭和二十五年二月十六日附各訴訟委任状昭和二十五年六月五日附期日変更申請書及び再審原告に対する判決正本送達報告書の各再審原告名下の印が成立に争のない甲第六号証たる福岡県田川郡金田町長の印鑑証明書に押捺された再審原告の印と対照してこれを異ること、証人秦チエ子(第一回)同秦カチ(第一回)各訊問の結果によつて認められる右各委任状及び期日変更申請書の再審原告名下の印が訴外秦チエ子の印と同一であり右答弁書及び再審原告に対する判決正本送達報告書の再審原告名下の印が訴外秦カチの印と同一であること成立に争のない甲第十一号証によつて右答弁書及び判決正本送達報告書に押捺された訴外秦カチの印が前記甲第六号証によつて認められるように福岡県田川郡金田町において再審原告の印鑑届がされているにかかわらず更らに別府市において再審原告の印として印鑑届されていること、成立に争のない甲第四及び第五号証によつて認められる再審原告は昭和十六年十二月十二日以降引続き福岡県田川郡金田町に居住中であること、後記認定のように前記大分地方裁判所昭和二十四年(ワ)第一五四号事件が同裁判所に繋属中の頃は再審原告が所有していた別府市所在の別紙目録記載の家屋には再審原告の母である訴外秦カチ、その妹である訴外秦チエ子及びその内縁の夫である訴外石坂繁一が同居中で、右訴外石坂繁一及び同秦チエ子及び再審原告の委任状印鑑届を偽造して無断で別紙目録記載の不動産を譲渡担保として、原告から金六万円を借り受けたこと、及び証人秦チエ子(第一回)同秦カチ、同岩田長助同広石郁磨原告本人(第一回)各訊問の結果を綜合すると、前記のように訴外石坂繁一及び同訴外秦チエ子再審原告に無断でその所有の別紙目録記載の不動産を買戻約款付で再審被告に売渡し乃至は譲渡担保として原告から金六万円を借り受けた関係上、その譲渡担保とされた右不動産について再審被告から所有権移転登記手続請求事件として前記大分地方裁判所昭和二十四年(ワ)第一五四号事件が提起された際もその繋属中も、同訴外人等において或は右訴訟に関する書類を提出または受領し或は再審原告名を冒用して訴訟代理人を選任して訴訟が遂行され親子兄弟の間柄でありながら再審原告に対し再審被告から右訴訟の提起のあつた事実を殊更らに秘していた事実が認められ、すなわち再審原告に対する前記大分地方裁判所昭和二十四年(ワ)第一五四号事件は全く再審原告不知の間に右訴外人等により或は同訴外人の選任した訴訟代理人によつて遂行せられ判決されたことが認められ、これは民事訴訟法第四百二十条第一項第三号に該当する場合であると解せられるので再審原告の再審請求はその理由がある。

よつて本案について案ずるに再審原告代理人は昭和二十九年三月四日の口頭弁論期日において乙第二第三及び第四号証の各成立を認めたけれども、その以前である昭和二十八年八月十日の口頭弁論期日において再審原告が再審被告に別紙目録記載の不動産を買戻約款付で売渡す旨の契約乃至六万円の貸金債権の担保として譲渡する旨の契約を締結したのは再審原告が全く不知の間になされたことを主張しているので右各書証の認否は錯誤に基くことが明かであるところ前記認定のように再審原告は昭和十六年十二月十二日以降引続き福岡県田川郡金田町に居住中であつたこと証人秦チエ子(第一乃至第三回)同秦カチ(第一、二回)及び原告本人(第一乃至第三回)と対比して証人徳丸繁男同再審被告本人訊問の結果をたやすく措信できないので右乙第二乃至第四号証の成立が真正であることを認めることができずまた証人秦チエ子(第二及び第三回)同秦カチ(第二回)及び再審原告本人(第二回)各訊問の結果と対比して証人徳丸繁男再審被告本人各訊問の結果及び前記甲第一号証の二のうち昭和二十五年三月二十八日の口頭弁論期日の証人訊問調書中訴外徳丸繁男の供述記載はたやすく措信できないので右甲第一号証の訴外徳丸繁男の供述記載乙第二乃至第四号証及び証人徳丸繁男再審被告各訊問の結果によつては再審被告が本案請求の原因として主張する再審被告は再審原告から昭和二十四年三月七日別紙目録記載の不動産を代金六万円昭和二十四年四月末日までの買戻約款付で買受けた事実乃至同日再審被告が再審原告に弁済期を同年四月末日の約定で貸与しその弁済の担保として右不動産を再審原告が再審被告に譲渡した事実を認めるに足りずその他右事実を認めるに足りる証拠はない。かえつて証人秦カチ(第一、二回)同秦チエ子(第一乃至第三回)原告本人(第一、二回)各訊問の結果を綜合するときは前記のように再審原告は昭和十六年十二月十二日以降引続き福岡県田川郡金田町に居住中であつたところ再審原告が所有していた別府市所在の別紙目録記載の家屋には乙第二号証たる公正証書が作成された昭和二十四年三月七日頃及び前記大分地方裁判所昭和二十四年(ワ)第一五四号事件が同裁判所に繋属中再審原告の母訴外秦カチその妹同訴外秦チエ子及び同訴外人の内縁の夫訴外石坂繁男が居住し、同訴外人等において再審原告には全く無断で再審原告所有の別紙目録記載の不動産を再審被告に買戻約款付で売渡し乃至は六万円の貸金債権の担保として譲渡し再審原告にその事実を秘して明かさなかつたことが認められ、結局右不動産は全く再審原告が不知の間に再審被告に、売渡され乃至は貸金債権の担保のため譲渡された事実を認むべくしかも右売渡乃至譲渡をした前記訴外人等にその売渡乃至譲渡をするについて再審原告を代理する権限のあつたことの認められない本件においては右訴外人等の再審被告に対する責任は格別として、再審原告に対する再審被告の本案請求はその理由がなくこれを棄却すべくこれと結論を異にする大分地方裁判所昭和二十四年(ワ)第一五四号不動産登記手続請求事件について同裁判所が昭和二十五年六月三十日言渡した原判決はこれを取消すべきものとしなければならない。

よつて訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のように判決する。

(裁判官 菅野啓蔵)

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